ヒブ感染症にかかったみほちゃんの場合
みほちゃん(仮名)は生後7ヵ月の女の子です。かかりつけの小児科の先生のところで、BCGと三種混合の接種はすでに済ませていました。
ある晩、急に39℃以上の熱が出て不機嫌になったので、地域の小児科の救急当番病院を受診しました。当直の小児科の先生は、念のため検査をしておきましょうと言って、採血してくれました。結果は白血球数も正常、CRPという検査値も正常ということでした。当直の先生からは突発性発しんかもしれません、熱が続くようなら明日の朝にかかりつけの先生を受診してくださいねという説明を受け、帰宅しました。
翌朝になると昨晩よりもぐったりしているような感じでした。心なしか顔色もやや悪いように見えました。お母さんは急いでかかりつけの小児科を受診しました。小児科の先生はみほちゃんの顔色を診るなり、検査しますと言って、すぐに指から血を採りました。検査の結果は、白血球数は2万、CRPも10近い値でした。急いで昨晩の病院に連絡を取り、緊急入院することになりました。昨晩の当直医は帰っていたので、別の小児科医が主治医となりました。髄液検査を行うと、髄液の白血球は増加、髄液の糖は低下で、典型的な細菌性髄膜炎(さいきんせいずいまくえん)でした。
細菌性髄膜炎として型どおりの治療を開始しました。髄液からはヒブ菌(Hib菌:ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型菌)が検出されました。一時はけいれんも起こしましたが、幸い薬剤耐性菌(やくざいたいせいきん)ではなかったので、比較的良好に回復しました。それでも2週間は点滴を続けなければなりませんでした。入院は1か月以上で、その間に何度も髄液検査をされたり、脳のCTやMRIを撮影しなければなりませんでした。退院時に、精密な聴力検査の結果では軽度の難聴になっているようなので、慎重に経過を追っていく必要があると説明されました。
最初に診た当直の先生はしばらくの間、予想外の展開に落ち込んでいましたが、ヒブ菌による髄膜炎の早期診断は不可能という論文を教えてもらい、問題はヒブワクチンが導入されていないことであると知って、少しは気を取り直したようです。
みほちゃんは3歳になり、現在では明らかな後遺症もなく、健やかに成長しています。お母さんはヒブワクチンが10年以上も前から世界中で使われていることを、小児科の先生から教えてもらいました。日本でもヒブワクチンが接種できるようになっていたら、みほちゃんは危険な目に遭わなかっただろうと考えると、無性に腹が立ってくるそうです。妹も生まれ、3か月になってすぐにBCGと三種混合を接種しましたが、本当なら2か月からヒブワクチンを受けさせたかったのにということでした。