百日せき菌と呼ばれる細菌がのどなどについておこる感染力のたいへん強いVPDです。多くの場合、家族や周囲の人から感染します。大人でも学校や職場で集団感染することもありますが、大人は苦しくても死亡することはありません。問題は、赤ちゃんをはじめ家族にうつすことです。母親からもらう免疫力が弱いために新生児でもかかることがあり、6か月以下とくに3か月以下の乳児が感染すると重症化します。
この菌を地球上から根絶させることはできないので、米国でも流行しています。日本でも、昔に比べれば減りましたが、年間1万人くらいかかっていると推定されます。年長児や大人でせきが長引くときは、百日せきのこともありますので、医師とご相談ください。低年齢で感染すると症状が重くなるので、多くの国では生後2か月頃からワクチンの接種を開始しています。また、米国では新生児の百日せきを予防するために、成人用DPT(Tdap)を妊婦に接種して胎児への移行抗体を増加させることもおこなわれ、妊娠27~36週での接種が勧められています。
最初は鼻水と軽いせきが出て、かぜのような症状を示します。スタッカートのようにコンコンコンコンという短いせきが長く続いてでてくるようになると、有効な抗菌薬でも病状を止めることはできません。そのうちにそのせきの続く時間が長くなって、10秒以上続きます。そうなるとたいへん苦しく、顔が真っ赤になります。せきが続くために息ができません。10秒以上続いたところで、やっと苦しそうに息を吸い込みます。「うーーーーー」と音を出して吸い込むので、英語ではウープ(WHOOP)と言います。
実際には、母親が見ていられないくらいに苦しそうな症状です。目が血走ったり、舌の筋が切れたりもします。乳児の場合、特に生後3か月以下ではそのまま息が止まって、死亡することもあります。この時期を何とか乗り切ると少しずつせきがおさまってきます。
大人の場合、苦しいですが死亡することはありません。しかし完治するまで2~3か月かかり、これが百日せきと言われる理由です。
もっとも深刻な合併症は息ができなくなる無呼吸です。生後6か月以下とくに3か月以下の乳児では無呼吸を起こしやすいのでたいへん危険です。呼吸が止まる場合には人工呼吸が必要になり、死亡することもあります。また、血液の中の酸素が減って、脳症(低酸素性脳症)もおこります。けいれんをおこしたり、知能障害などもおこります。また肺炎を起こすこともあります。
四種混合(DPT-IPV)ワクチン(定期接種、不活化ワクチン)で予防します。
赤ちゃんの百日せきが流行していますので、生後2か月から4週間隔で3回受けると予防効果が高くなります。B型肝炎、ロタウイルス、ヒブ、小児用肺炎球菌と同時接種で受けることをおすすめします。
小学校入学後の百日せき患者さんが増えています。四種混合ワクチンの接種者の抗体低下による百日せきの感染が心配な場合は、MRワクチンの2期の時期に合わせて三種混合(DPT)ワクチンを任意接種で接種します。とくに乳児への感染を予防する場合は、MRの2期の時期に合わせずに4歳以降での接種をお勧めします。
11~12歳には、ジフテリアと破傷風予防の二種混合(DT)ワクチン(定期接種・不活化ワクチン)を接種します。二種混合ワクチンには百日せきワクチンが含まれていないために、成人に百日せきが流行するという問題があります。百日せきにかからないためには、二種混合ワクチンに代わって三種混合(DPT)ワクチンを任意接種で接種します。
早く免疫をつけて、危険なVPDから子どもを確実に守るために同時接種は欠かすことのできないものです。同時接種が安全であることは、世界の何億以上の子どもたちが受けてきていることからも、世界の常識であり、日本でも確認されています。接種年齢になっていれば、何本でも受けられます。米国では、生後2か月の時は6種類も受けています。